クロジ第12回公演『ヒルコ』
観劇の趣味がある訳ではない私が、「次の公演も行けるなら行きたいな」と思い、有り難いことに観劇を続けられている劇団があります。それが「乙女企画☆クロジ」改め「クロジ」です。
観劇するきっかけになったのは客演である能登麻美子さん。第9回公演「エ ン ガ ワ ノ ク ラ ゲ」は、舞台の使い方、場面転換のテンポ、役者さんの個性など、とても自分の中に驚きや感動が生まれた公演で、きっかけこそ客演に因るものではありましたが、主宰である福圓美里さんと松崎亜希子さんの存在感と纏め上げた舞台を観て、他の舞台も観てみたいという思いが今に繋がっています。これまで色々な劇団の舞台を観劇しましたが、自分の中に劇団の存在感として何かを残したのは初めてだった(結局、目的の役者さんの役どころを主体に観ることが殆どだった)ので、クロジは特別な存在と言えると思っています。
クロジの舞台に魅了されて行く人が増えて来たのか、私が初めて観た第9回公演よりも会場が大きくなっているというのに、チケット手配が格段に難しくなっています。特に今回は、チケット予約システムの問題もあって危うく取れないところでした(苦笑)。まぁ、結果的に希望の公演ではなかったものの手配が出来ただけでも良かったです。チケット手配に関してはトラブル報告も兼ねた要望をクロジ事務局へお伝えしたので、今後色々と改善されたら良いですね。
第12回公演「ヒルコ」は、架空の世界ながらも戦の優劣が絶対的な支配力を生んでいた時代の話で、強国の驚異に晒されていた小国2つが、いがみ合いを止めて手を取り合おうと、二国の同盟の証として若い夫婦が誕生したところから始まります。登場人物は、小国の1つである「ウルガノ国」の王子、その幼馴染の側近、幼馴染の女中、「ツツジモリ」の姫とその兄、強国「マガシロ」の頭領とその妻、兵器開発責任者、占い師の9名が織り成す物語は、いつもの”クロジ”テイストで、どこか壊れた愛、真っ直ぐな愛、愛からの憎しみ、男と女…、登場人物同士の関係に無駄がなく、どこか非日常的でありつつも”愛”の形について考えさせる、救いがありつつも決して単純なハッピーエンドとは言えない、そんな密度の濃い2時間半でした。
舞台設備の創り、立体的な場面構成を演出する照明、場面切り替えのスピード感、役者の熱量。役どころも含めて、個性のぶつかり合いと演出の上手さが観ている者を飽きさせずに集中させてくれ、全く時間を気にすることなく駆け抜ける舞台は流石でした。ところどころに入る、ちょっとした笑いを誘う台詞やアドリブはその時々の舞台が引き出すものですが、息の詰まる緊張感を程よくガス抜きしてくれるのも上手い観客コントロールだと思います。
今回の舞台は、結婚して間もない二人の間に、戦へ行く夫を見送る嫁が「必ず戻る」という夫の言葉の「証」を欲するがため、夫の指と自分の指を交換する…。その感覚は自分の中には全く湧かない感情ながらも、一つの”愛”の形として終始変わらずに居た福圓さん演じる真珠の想いは、「実際にこんな娘が居たら鬱陶しく思いそうだな」と思う反面、「ここまで想われ、真っ直ぐな愛を向けられていることは幸せなことだな」と思う自分も居て、これまでのクロジの舞台の中で一番考えさせられる舞台になった様に思います。
最後、部落を失い行き場を無くした中で、王子である右斗と姫である真珠の冒頭に語った小さな夢と、全く形を変えて至った現実である”今”を目の当たりにしつつも、初めて本当の想いが繋がった様に感じられて、ちょっと目頭が熱くなりました。右斗の吐露する胸の内とそれをボロボロになりながらも真っ直ぐな愛を向ける真珠の想いのそれぞれの結果。二人で失ったものをお互いが支えながら光に向かって歩む姿が、誰からも祝福されない様な状況下にあっても、小さな幸せを紡いで行くことが出来る様な気がして、あまりにも救われない中でも”ハッピーエンド”と言える、そんな印象を受けました。実にクロジらしい纏め方だな、と。
今回、それぞれ役者さんが非常にバッチリはまっていて、元々の役者さんを意識することなく、個々の役そのものとして観られたと思います。ただ、自分の中で福圓さんだけは不思議な感覚があって、2013年に入って「スマイルプリキュア!」を全話観たことから、福圓さん演じる「星空みゆき」の印象が強く残っていて、感情の振り幅や魂を絞りきった演技がとても真珠と似ており、その時々でみゆき(っていうか「キュアハッピー」(笑))が頭を過ぎることがありました。その魂の演技を目の当たりに出来たことは、自分の中で大きな収穫でした。特に、前回の11回公演「かみさまのおかお」では、福圓さんの演技を見られなかった(ダブルキャストで、私が観た回は藤田咲さんだった)ので、私が観た中でも初のヒロインだったことも嬉しくありました。
終演後はオリジナル台本とパンフレット、第11回公演「かみさまのおかお」のDVDを購入。公演内容と色々異なる台本を読む楽しみもありますし、パンフレットで各役者さんの意気込みや想いに触れることも出来た(福圓さんが「私が真珠の心情に少しでも疑いを持ったらお客様の気持ちを引っ張れない」と苦労と覚悟に触れられた)のはとても良かったです。「かみさまのおかお」も、ダブルキャストの両公演を収録してくれたので、私が観られなかった公演も含めて見比べてみたいな、と思っています。
次回公演は来年9月ということなので(TGSと日程丸被りの予感が…(汗))、また足を運べる様であれば是非観劇したいな、と思います。この度は、素敵な公演で楽しませて頂き、本当にありがとうございました!
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